もし私たちが以前に、熟成のタイプ(生物学的熟成または酸化熟成)と発酵のタイプ(完全もしくは部分的)が異なるシェリーを差別化する大きな要素として定義したのであれば、もうひとつ私たちのワインの品質を特定するにあたって、忘れてならない極めて重要な要因があります。それは時間です。
長期熟成はボタ(木樽)の使用により可能になった永続的な濃縮過程の結果、シェリーの特定のタイプの個性を増大させます。その他のケースでは、この時間とボタの組み合わせは長期熟成の後にのみ得られる特異性と丸みを授け、新しい個性と感覚を与えます。生物学的熟成は性質上、あまり長期間にわたって行うことはできません。
ボデガの微気候条件によりますが、平均7-8年後フロールは、食糧となっていたワインの栄養のほとんどを消費し弱くなります。フロールは、ワインが大気中の酸素と直接触れてしまうことから守り続けることができなくなります。
そのため、長期熟成シェリーについて語るときは、完全に、もしくは少なくとも大半の期間、酸化熟成もしくは物理化学的熟成をしたワインのことを指します。
統制委員会は、その熟成の特性から3つの特別のカテゴリーのワインを認証しています。
原産地呼称のボデガ(ワイン・メーカー)は本物の醸造学的至宝を保存しています。テイスターたちは頻繁に、非常に特別なワインのクリアデラを充実させるため、それに値する特徴を持っているワインを選別しています。ソレラ・システムを形成しているワインは、19世紀から、時としては18世紀から自家にあったものとブレンドされています。このような例外的な品質と比類なき熟成をした百年の歴史を持つワインが市場に出ることはごく稀です。
伝統的にこれらのワインを楽しむことができたのはごくわずかの特権階級で、ボデガの所有者一族や信頼の高い従業員でこれらが保管されていた「サクリスティア」(教会の聖具納室。最も大事なものが保存されている部屋)に立ち入ることができた人たちでした。
また、ヘレスの地を訪れた権力者や名士たちを接待するためにも提供されました。これらのワインにその古さと特別な品質を証明する公式な認定を与えるため、ヘレス=ケレス=シェリー原産地呼称統制委員会は、2000年、熟成期間認定シェリーの特別のカテゴリーをふたつ作りました。それが平均熟成期間20年以上のワイン、V.O.S.そして平均熟成期間30年以上のワイン、V.O.R.S. です。
シェリーを特徴づける重要な要因のひとつは「クリアデラとソレラ」として知られる熟成方法です。それは素晴らしく完璧な動的熟成工程ですが、シェリーの熟成年数を正確にするのは不可能であり、平均熟成年数を参照するしかありません。
統制委員会によって開発された平均熟成年数の認定システムは、それぞれ違うボデガによって出荷されたタイプのワインの個別のロット(「サカ」と呼ばれる)がベースとなっています。委員会の認定は具体的な商品ブランドや個々のボデガのワインの特定タイプに与えるのではなく、20年以上もしくは30年以上の平均熟成期間を持つ該当ソレラから出荷される特定量のワインごとに与えられます。
品質と古さの認定を得るために、ボデガはそのワインを独立したテイスティング委員会に提出しなくてはなりません。この委員会は有能で知識のある専門家で、ヘレス地域のボデガといかなる関係のない人々によって構成されています。委員会には統制委員会内部の人員とともに大学関係者、技術者など、シェリーのテイスティングにおいては権威とされる、そのほかの専門家が加わっています。テイスティング委員会は出荷ごとに、2つの役目を担って、ワインを分析し、試飲します。単に平均熟成期間を認定するだけでなく、この特別な性質を持ったワインが期待される並外れた品質を検証するのです。
その評価作業において、委員会はスペインで最も施設の整ったラボラトリーのひとつである、ヘレスぶどう栽培・醸造学研究所の技術援助を受けます。なかでも特に、提出されたサンプルの古さに関連したパラメーターを分析します。例えば炭素14番、エーテル成分、灰、つまりドライ・エクストラクトなどです。いずれにしろ、件のワインは、厳しいテイスティング・チームの質的評価を得なければ、分析結果だけでは、統制委員会の認定に十分とはいえません。
その上、熟成期間認定ワインの商品化には各ボデガの商品化「クポ」(割当)が反映されます。
原産地呼称の品質保証手段のひとつがクポ、つまり在庫ワイン中、各ボデガが各年度に商品化することが認められるパーセンテージの存在です。このシステムにより、統制委員会は、ワインの最低熟成年数を保証することができます。一般的にこのクポ・システムによって、原産地呼称のボデガが1リットル商品化するにあたり、その熟成ボデガは3リットルの在庫を持つことになっています。こうして3年熟成として商品化されるワインの最低熟成年数が保証されます。
そこで、熟成期間認定ワインの場合、出荷するワインのクポの「消費」は、当然、統制委員会によって保証されている熟成年に見合ったものになります。つまりボデガによって商品化される「20年以上」のワイン1リットルにつき、該当熟成システムには少なくとも20リットルの在庫がなければなりません。そして同様に30年以上の認定を受けたワインは、商品化する1リットルあたり、最低30リットルの 在庫があるべきなのです。
熟成期間認定ワインの規則によって、特定な用語も適用することになります。つまり平均熟成20年以上のシェリーにはイニシャルV.O.S.を使用します。これはラテン語で “Vinum Optimum Signatum” (最高級の選ばれたワイン)のことですが、英語の “Very Old Sherry”という表現とも一致し、この表現もシェリーのラベルにはよく使われています。
平均熟成30年以上のシェリーの場合、使用するイニシャルは V.O.R.S.、ラテン語では “Vinum Optimum Rare Signatum” (最高級で、希少な選ばれたワイン)で、同じく、英語では “Very Old Rare Sherry”と一致しています。
V.O.S. および V.O.R.S.というイニシャルは、相応するラテン語銘とともに、統制委員会が認定したワインのシールに表記され、ラベルにも使われなければなりません。
統制委員会は、V.O.S. または V.O.R.S.の古さには至らないまでも、大変長い熟成のシステムを経て、非常に高い品質を持つワインも認定しています。それは平均熟成年数12から15年で、全体的もしくは部分的に酸化熟成もしくは物理化学的熟成をしたシェリーです。
熟成期間認定ワインの場合は出荷ごとに認定を行う厳しいシステムでしたが、こちらの場合、平均熟成12年もしくは15年のワインとしての統制委員会の認定は、認定を請求するワインが熟成されているクリアデラとソレラのシステム全体に対して行われます。こうするとによって、ボデガはより柔軟性を持ってこのようなタイプのワインを出荷できることになります。
このシステムはボデガからの認定要請を受けることで始まり、熟成年数表示を要請しているブランドに該当するシェリーの在庫を統制委員会に明示しなければなりません。熟成中のシェリーはボデガのどこにあるか明示されなければならず、年間販売量のクポは在庫量に見合ったものでなければなりません。つまり平均熟成12年のシェリーの場合は12分の1、平均熟成15年のシェリーの場合は15分の1の割合であることです。
統制委員会の調査員は在庫を検証すると、サンプルを採り、テイスティング委員会にその品質を検討し、見解を述べてもらい、また要請されている熟成年数のレベルを保証するための分析を行ってもらいます。この工程はすべて、各年度始めに繰り返さなければなりません。
クリアデラとソレラという伝統的なシステムは、シェリーのほとんどに使用されている熟成方法ですが、原産地呼称統制法は「ヴィンテージ」のシステムを使う可能性も考慮しています。 静的(ソレラが動的なのに対して)特徴を持った熟成システムは、収穫年がそれぞれ違うワインを別々にして熟成させ、収穫年の違うワインをブレンドすることは一切しません。
年によってボデガは、ヴィンテージ・システムによって熟成させるための品質基準要項を満たしたモストを選別します。この基準はボデガによってまちまちですが、年ごとの特徴的な気候条件、ぶどうの出所、醸造方法が基本的な要素になります。モストが採取されると、酒精強化され、ボタに入れられ、熟成が始まります。それは基本的に酸化熟成です。
たとえ最初の酒精強化が生物学的熟成が可能なレベル(アルコール度数15%)であったとしても、フロールの膜を維持するためには、ボタに若いワインを入れてリフレッシュすることによって、定期的に栄養補給をしなければなりません。しかし、ヴィンテージ・システムの熟成に使われるボタは、統制委員会によって閉められ、封印されていて、それがボタ内の空気の循環を阻害し、フロールの「呼吸」を妨げます。
統制委員会によるヴィンテージの認定には、対象のワインが該当する収穫年のものだけであり、統制委員会の管理下以外では、いかなる操作もされずに維持されていることが保証されなくてはなりません。そのため統制委員会の監視のもと、確実にシェリーが木の容器であるボタまたはボコイ(大樽)に入っており、完全に密閉され、封印されている必要があります。